2022年4月20日  谷口 怜

今回は、最近お問合せや工事が多くなってきている耐震補強について少しご紹介します。

耐震補強のお問合せが多いタイミング

みなさんが耐震補強や改修を考えたり工事のご相談を頂く時期には、大きく次の2つのタイミングがあります。

1つ目は、近年の建材価格、輸送価格の上昇に伴い増えている、中古住宅を購入して住む前に耐震補強や改修を行う方
2つ目は、築30年程度の若い時に建てたお家のお風呂やキッチンの交換と合せて耐震改修を実施して、安心できる老後の住まいを計画ご検討される方。

共通するのは、築30年程度で一度、耐震について見つめ直す方多いように感じます。特に当社の所在地である静岡県では耐震補強や改修について意識が高く、自治体や行政も耐震改修には補助金制度を設ける等の支援と、工事実施者向け耐震補強計画についての共通した改修方法種類や、施工方法など発信を行っています。

勤勉な業者さんであれば改修工事の施工方法については調べることができますが、耐震補強の施工は木造であれば普段から木造の工事している業者さんに相談し、補強計画は施工会社の紹介などで建築士さんにお願いするのが良いでしょう。

耐震補強計画をする前に、ご自分で考慮しておくこと

耐震補強だけではなく、リフォーム全般にいえることですが、工事をすることで目的が達成できるかや生活がどのようになるかをはっきりイメージすることが大切です。

1今の家にあと何年くらい住むのか?
2これからのライフスタイル(家族構成など)はどなるか?
3ご予算はどのくらいか?

等をはっきりさせておくと、ご提案する設計者さんとの行き違いを防ぐことができます。

 

耐震補強の優先順位と補強設計

当社ではこれまでも何軒もの改修工事をさせて頂いていますので、耐震改修を考える上でどのような計画が良いのかというのうは、一般の方には少しわかりづらいと思いますので国交省などの指針を基に費用対効果を踏まえた優先順位をご紹介します。

 

一つずつ簡単にご説明しますが、以外と優先順位の低い「⑧屋根を軽くする」については工事にあたって特に注意が必要なので、検討されている方には特に読んでいただきたいです。

①腐りや蟻害を直す

最も優先順位が高いのは、腐っている土台や柱やシロアリの被害を直すことです。今あるお家は補強が足りなかったりバランスが悪かったりはあるかもしれませんが、全く筋交い等の補強が全く無い、お家はほとんどありません。その少ない補強も土台や柱がしっかりしていなければ、そもそもその効果を発揮することがありませんので、今はある補強を生かすためにも、補強工事の効果を発揮するためにも最重要といえます。

②壁の補強、追加をする
③壁の配置バランスを良くする

これらはイメージがしやすいと思いますが今ある壁を筋交いや構造用合板などで補強したり、補強壁を増やしてお家全体の補強耐力壁のバランスを整えます。

④柱と基礎を金物で固定する

補強した壁周辺をメインに基礎と柱を金物などで緊結して力の伝達を確実にすることで補強計画の計算通りの効果が発揮できるようにします。

⑤基礎補強

以外と優先順位が低いのが基礎補強です。もちろん補強するに越したことがないの間違いないのですが、優先順位が下がっている理由は基礎補強をする際にかかるコストです。補強工事する場合はどうしても床を一度壊すなど大掛かりな工事になりがちです。

補強する壁とセットで部分的に行うことで費用を抑えることができます。

⑥2階の床面や屋根面を強くする

こちらもコストが大きくかかる為、優先順位が低いですが床面や屋根面を強くすると水平力(地震の横揺れ)に対して絶大な効果を発揮します。

⑦基礎のひび割れを直す

基礎のひび割れはその程度にもよりますが、ごく細いひび割れの場合は①~⑥に比べて優先順位は低くなります。もちろん基礎全体が割れているようなクラックはすぐに直す必要があります。

⑧屋根を軽くする ※要注意

意外かもしれませんが、屋根を軽くするのは優先順位が最後にしています。そもそも屋根の下の壁がしっかりしていないと屋根が軽くても意味が無いというのもありますが、最重要なのは重い屋根瓦が載る前提で構造が組まれているということです。

どういうことかと言いますと、特に昔の建物は、屋根材といえば瓦で、瓦が載るという経験則で梁、柱、屋根の接合をしているため、今の建物と違って屋根のタルキ材付近の金物が脆弱です。瓦という重しが載ることで外れないようになっている可能性があります。

当社では屋根を軽くする場合は、柱、梁やタルキ廻りの金物の点検と補強をセットで行います。
耐震改修で屋根を軽くするのは、工事としてはシンプルで素人でも屋根屋さんにお願いすれば簡単にできて、わかりやすく変わって素人受けがよく工事金額も大きくなりますが、耐震設計に知識が無いと実はかえって地震に弱くなっていたとなりかねませんので注意が必要です。

費用を考えると屋根を葺き替えるより、制震ダンパー等の設置で揺れを抑えて、屋根の重さによる影響を下げる方が、費用対効果が大きいケースも多いと感じます。

おまけ「木造の耐震補強必要なのは、ほとんどが在来軸組工法」

実は、ツーバイフォー工法は設計通り正しく施工されている場合、耐震性に優れた建物になるため耐震補強工事をする物件は、ほぼ在来軸組工法です。在来軸組工法が凄く弱いというわけでなく、新築する際にツーバイフォー工法よりも、軸組工法の方が、最低基準が圧倒的に低いため、耐震性の低い建物が許可されてしまっていたという背景があります。

在来軸組工法の方がツーバイフォー工法より間取りが自由になるという誤解

よくこのような誤解を植え付ける方がいらっしゃるようですが、構造設計の立場でみればとんでもない誤解です。確かに構造計算をしない仕様規定に基づいて設計する場合、軸組工法は法規定が少なく、ツーバイフォー工法は法規定が厳しいため軸組工法の方が自由な設計ができるような気がしますが、これが軸組工法が後から耐震改修が必要になっている一因でもあります。

ある意味、ツーバイフォー工法であればどんな業者が建てても一定の耐震性能を確実に確保できるということでもありますので、耐震改修がほとんど行われないのです。

どの工法であっても構造計算を

当社では、在来軸組工法、ツーバイフォー工法どちらで建てても構造計算を行います。構造計算をする場合、構造にかかわる仕様規定は適用されませんので純粋に目標とする耐震性能に適う構造設計をします。すると仕様規定で建てられる在来軸組工法は計算してみると耐震性能が足りないというケースが発生しますので、その場合は計画を見直すことになります。

まとめ

耐震補強、改修について考えている方は、不安なことも多いと思います。
「まずは現状を知ることが大切」です。インターネットで色々な一定の情報が見れる時代ではありますが、ほとんどお家は一点物のオリジナルですから、耐震改修の方法も建物に合ったやり方が必要です。専門の方や建築士さんに相談、調査してもらうことが大切です。

 

2022年4月20日  谷口 怜