工法・テクノロジー

見学会にお越しになったA様からこんなご質問をいただきました。
現在新築を考えていますが、ハウスメーカーや工務店、断熱材メーカーのホームページを見ると色々な断熱材や施工方法が有り過ぎて、一体何がいいのかわからなくなってしまいます。
どんな断熱方法が一番いいのでしょうか?教えてください。

最近省エネルギーに関心を持つ方が増え、断熱材や断熱方法のご質問をよくいただきます。
ホームページや市販の本を見ても、残念ながら断熱材メーカーは自社製品を薦め、ハウスメーカーや工務店は自社にとって都合の良い製品と工法を薦めます。
ここではフランチャイズに加盟してこなかった当社が、どんな苦労をしながら断熱材・断熱方法を選択してきたかを例にしながら、公平な施工者の立場で断熱材・断熱工法・遮熱に関する最新情報をお話ししたいと思います。
まず始めに断熱材と断熱方法をまとめてみます。断熱材は、大きく分けて
  • 無機繊維系(グラスウール、ロックウールなど)
  • 木質(天然)繊維系(セルロース、ウール、炭化コルクなど)
  • 発砲プラスチック系(ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、
    硬質ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、フェノールフォームなど)
    などが有ります。
断熱方法には、
  • 充填断熱工法=(柱や間柱の間に断熱材を入れる断熱工法。)
  • 外張り断熱工法=(建物の外側から構造体をすっぽり包む方法)
    の2通りの方法が有ります

わが国の断熱工法の変遷
日本では吉田兼好が「徒然草」に「家の作りやうは、夏をむねとすべし・・」と綴った様に、古来より住まいは風を通す事に重点が置かれていた為、断熱材の歴史は比較的浅く、オイルショック後1980年に初めて明確な断熱基準が作られました。その後「地球温暖化」が世界的な問題になり、1999年の次世代省エネルギー基準が作られ、世界基準での高断熱・高気密化が一気に進み、様々な断熱工法及び断熱材が開発される様になりました。
1.当社では、最初にグラスウールを高性能な製品に変えました。
住宅の高断熱化をする上で、当社で最初に考えたのは、当時一般的に使われていた10K(密度の単位、数値が大きい程断熱性能に優れます)の断熱材を北海道仕様の高性能グラスウール(24K)に変更する事でした。
断熱性能は充分確保しましたが、高断熱化に伴い壁体内結露防止の為ベーパーバリアが求められ、その完璧な施工の難しさに大変苦労しました。(ベーパーバリアとは、断熱材の内側にポリエチレンフィルムを張り、壁内への水蒸気の進入を抑える事。中途半端な施工は壁内で結露し、土台や柱が腐ってしまいます)その為、専用の気密部材を取り寄せ、様々な方法で社内テストを繰り返しましたが、壁中にはコンセントや電気配線、給排水設備の配管などが巡らされており、完璧にベーパーバリアを施工する難しさを身をもって体験しました。
(余談ですが、全国に2社ある気密部材メーカーの担当者に聞いたところ、相変わらずぜんぜん売れていませ〜ん。と言う返事でした。皆さんどうやっているのでしょう。)
それ以外にも、夏の逆転結露の問題、そしてグラスウールを切断する際に発生するガラスの微粉末を吸い込むと、肺の内壁に刺さってしまうと言う健康被害の存在が発表され、当社では7年前からグラスウールの使用を全面的に中止しました。

24Kの高密度グラスウール


ベーパーバリア施工前
2.健康被害のない高性能ロックウールの採用
グラスウールの代わりに使い始めた断熱材がロックウールです。原材料が鉱物で、しかもラッピングされた物を選びましたので、グラスウールの様な健康被害の心配は無くなりました。
ただしベーパーバリアの施工の難しさは残っておりましたので、今では、コンセントや配線による貫通部の少ない天井面のみに高性能ロックウールを使用しています。尚外壁面に使う場合には、完璧なベーパーバリアを必要としますので、ご注意ください。

24K高性能ロックウール
3.調湿性能に優れたセルロース断熱材の場合
最近セルロース断熱材についてよくご質問をいただきます。
セルロースとは植物繊維の事ですが、断熱材には板状製品とブローイング(吹込み工法)が有り、当社では2000年からフィンランド製の板状セルロース断熱材を直輸入して使い始めました。
この断熱材は、断熱性能・調湿性能とも申し分有りませんでしたが、M&Aによってドイツ企業に買収されてしまい、価格が折り合わなくなってしまいました。現在では、付加断熱用に使用しています。ブローイングファイバーに関しましては、主に古新聞を原料に使用しており、当社でも色々なメーカーの製品をテストしてみましたが、
  1. 設備配管、電気配線やコンセントボックス廻りに完璧に充填されたか目視出来ない事。
  2. 調湿性能が高いのでベーパーバリアは必要ないはずなのに、室内側にベーパーバリアを張るのが標準仕様である事。
  3. 壁体内でのずり落ちを防ぐ為に、相当量の接着剤が使用されている事。
などの理由から、現状採用を見合わせ改善を待っています。(古新聞のリサイクルによるエコ製品ですが、新しい紙を混ぜている粗悪品もあるのでご注意が必要です)

板状セルロース断熱材


今は待ちのブローイング
4.やっと身近になった現場発砲系断熱材
セルロースファイバー吹込み工法に代わる断熱材としましては、アイシネン(カナダ)などの現場発砲断熱工法をお勧めしています。
以前は、岐阜県にしか専門施工会社が有りませんでしたのでコストが高すぎましたが、施工会社が富士宮市に出来てから施工面積1m²当たり¥2000-、35坪程度の住宅一軒でも。約40万円と納得できる価格になりましたので、今後はもっと増えていくと思います。

やっとリーズナブルに!
5.私にとってとても思い入れのあるウール(羊毛)断熱材です
調湿性能面からウール製の断熱材も充填断熱材として使っています。
当初日本国内では普及しておらず、輸入業者もいませんでしたのでニュージーランドのメーカー探しから輸入業務まで、苦労しながら全て自分で行いましたので、とても愛着のある断熱材です。エコブームで人気が出てからは、現地でまとめ買いする業者が値を吊り上げてしまい、コスト面では使いにくい資材となってしまいました。ただし調湿性能がセルロース同様とても優れていますので、当社では現在でも付加断熱用に使用しています。
調湿効果大のウール製
調湿効果大のウール製
6.2002年から開始したEPS(発砲ポリスチレン)の外張り断熱工法
米国製EPS(発砲ポリスチレン)の特許が切れ、コストアップ無しで使える様になった2002年から本格的に外張り断熱工法を開始しました。現在では、基礎用と外壁用に各々防蟻加工されたEPSを外張り施工しています。尚、EPSで外張り断熱する場合、必ずEPSの外側に通気層を設けますが、使用する通気胴縁も耐久性に優れたプラスチック製に全面切替しました。
※塗り壁仕上げの場合も、アメリカやカナダなどで一般的なEPSにスタッコを直塗り仕上げする方法はとらず、乾式通気工法で仕上ます。
現在コスト対効果が一番のEPS外張り断熱工法
現在コスト対効果が一番の
EPS外張り断熱工法
まとめ
これから高断熱高気密住宅を選択する方法としては、
  1. ハウスメーカー
    オリジナル断熱工法(実際は断熱材メーカーが製造する製品を使用)
    =コスト高、性能低〜高
  2. 技術力のない地場工務店
    断熱材メーカーのフランチャイズに加盟するか、断熱材メーカー指定の工法を採用する。
    =コスト高、性能中〜高
  3. 技術力のある地場工務店
    技術力を生かし、外張り断熱+求める断熱レベルにより付加充填断熱工法を採用
    =コスト中、性能高
    が主流になっていくと思います。
更に右の写真のような遮熱資材を充分に活用し、断熱材のみでは防ぎにくい輻射熱に対し、断熱+遮熱+換気をバランス良く設計し、 丁寧に施工する事が、高気密、高断熱住宅を建てる際に重要かと思います。
遮熱対策はこれから必須です
遮熱対策はこれから必須です

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